昨日,X(旧 Twitter)のダークモード以外の配色モードを廃止するとイーロン・マスク氏が表明し,反対意見が殺到するという騒動があった。結局,ダークモードをデフォルトにしてライトモードも一応残すという方向に軟化させたようだ。
デライトでは,今年2月にダークモード(ダークテーマ)対応を実現したばかりなので,個人的に色々思うことがあった。前回予告した KNS についての文章に時間がかかり過ぎているため,今回の一日一文はつなぎとして,開発者の視点からこの騒動の背景について書いてみたい。
デライトは元々明るい配色,いわゆるライトモードのみでやってきた。大きな理由の一つに,イメージの問題がある。白背景を基本としたデザインにはやはり明るく清潔な印象がある。サービスがメディアで紹介される時など,イメージ戦略を考えるとこれは馬鹿にできない。
個人的には黒背景が好きだが,この種のネットサービスではどうしてもアングラ感が出てしまう。背景色を微かな灰色にすることも試したが,白背景と比べるとちょっとくすんだような,地味な印象になってしまう。なるほど,ダークモードが流行しても大手サービスの多くがデフォルトで眩しい白背景を採用している理由はこれかと思ったものだ。
今年2月,満を持してダークモード対応を完了し,私もテストがてらダークモードを常用していた時期がある。最初は新鮮さもあって,それこそダークモードだけでやっていけそうな気がしたが,慣れてくると,眠気が強くなったり,いまいち調子が上がらないことに気付いて,結局ライトモードを常用する生活に戻った。
ライトモードもダークモードも,どう感じるかは個人差や環境差によるところが大きい。どちらかが万能だと思ってしまうのは,単純な経験不足なのだろう。今回の騒動は,ソフトウェア開発におけるマスク氏の経験不足と,新しいロゴに象徴される偏った趣味に起因する出来事とも言える。
ただ,もう少し踏み込むと,マスク氏をこの拙速に追い込んだ X の切実な開発事情が見えてくる。
配色モードの追加や維持というのは,見かけよりずっとコストがかかる。例えば,外観に絡むような機能追加をした時,それぞれの配色モードで問題が生じていないか確認する必要があるし,問題があれば個別に調整する必要がある。そして,このコストは,既存のコードの保守状況が悪ければ悪いほど,変更の程度が多大であればあるほど高くなる。
デライトの場合,開発者である私自身が一から書いて保守し続けている HTML や CSS で,ほとんどサービスとしての形が出来た状態だったので,最小限のコストでダークモードを追加出来た。
X の事情は,デライトとは正反対だ。長年他人が保守してきたコードを引き継ぐというのが,それだけで気の遠くなるような作業であることは,それなりのソフトウェア開発経験者なら誰でも知っている。マスク氏は,その X を大改造しようとしているわけだ。複数の配色モードの維持は,多くの人が想像しているよりはるかに重い足枷だろう。
X の方向性には全く共感しないが,マスク氏の立場を想像するに,出来れば当面は好きなダークモードだけで,それが駄目ならせめてダークモード以外の品質保証はしない方向で開発を進めたい,と考えてしまうのは無理もないことだと思う。