開発では地味な作業の積み重ねが目に見える成果になってくる一番楽しいところに来たが,ふと思い立って,雑務の抜本的な見直しも始めた。いよいよ本格的にデライト以前のような生活に戻れそうだ。
ここ半年ほど,希哲館事業外での体験に求めるものが増えてきたような,不思議な心境の変化を感じていたが,その原因も少しずつ掴めてきた。やはり,長期戦態勢に切り替えたあたりから精神的なゆとりが出来たのだろう。
新生デライトの完成を目前に第五次デライト市場戦略も固まり,気付けばデライトの完全な成功や希哲館事業の成功に対する焦りも無くなっている。油断するわけではないが,もうここまで来たら,あとはばら成し良く色々なものに磨きをかけながらその時を待つしかない,という心境になっている。少なくとも最低限やるべきことはやったし,時代を迎えに来れるところまでは来た。
思えば,私の人生は17歳の頃から希哲館事業の不可能性との闘いだった。特に,デルンの実用化に向けて本格的に走り出した頃からは,希哲館事業外で使うあらゆる力とあらゆる時間が惜しかった。そんな呪縛からも解き放たれたようだ。
今はこのデライトがあり,知識も経験も十二分に得て多くの迷いが無くなり,希哲荘を中心とした理想的な生活環境も整っている。これでデライト以前のような安定感を取り戻せるならそれほど心強いことはない。もはや無敵だ。
そんなことを考えていたら高揚してきてなかなか寝付けなかった。
デライト3周年,コロナ収束,誕生日……と何かと大きな節目が重なる時期だが,それも気分の切り替えに一役買っているのかもしれない。デライト正式離立からの3年がコロナ禍の社会の雰囲気と共にあった,というのが特に大きいのかもしれない。