知り合ってからかれこれ20年になる友人,「鈴木さん」こと鈴木仁大が長年の夢を叶えたという知らせが先日あり,色々なことを思い出していた。なにせ私が20歳頃の出会いなので,大人になってからの人生の想い出にずっと関わっている人物だ。
20歳の誕生日を迎えようかという頃,私は奈良県にある某宗教の施設にいた。閃きによって17歳で希哲館事業の青写真を得ていた私は,この事業の絶望的な道程に絶望していた。自殺未遂騒動まで起こし,親戚一同を巻き込んで,「更生」のためあちこち連れ出されていた。その一つが,某宗教の体験ツアー的な行事だった。これについては色々と面白い話があるが,長くなるので端折る。とにかく,その合宿所のようなところで,相部屋だったのが鈴木さんだ。
第一印象は最悪だった。外見は,明るく染めた髪を逆立て,カラフルな古着にふざけた小物をごちゃごちゃ引っ提げ,アメカジなんだかパンクファッションなんだかよく分からない格好をした,当時22歳か23歳の若い男だ。いかにもろくな教育を受けていなさそうで,クスリでもやっていそうな雰囲気だった。当然ながら,この時,この人物から人生で一番大きな影響を受けることは知る由もない。
こんな男とはいえ相部屋なので,多少は打ち解けてくる。というより,この男,外見の割に礼儀正しく,気さくな良い兄ちゃんだった。勉強とはあまり縁が無さそうだったが,地頭が良いのか,話していても面白い。ある日,オールディーズが好きということで意気投合してからは一気に仲良くなってしまい,それからはよく行動を共にするようになった。この頃の私は,希哲館事業への絶望を,夢に酔ったような昔のアメリカ音楽で紛らわしていたのだった。
私も鈴木さんも,この宗教の信者でもなければ信者になるつもりもなく,この非日常的な体験を,ある種のテーマパークのように楽しんでいた。それでいいという気楽な一般向けの行事でもあったので,そこには老若男女いろいろな人がいた。そして,鈴木さんはあっという間にそこで一番の人気者になっていた。若い女の子達から強面の老人まで,鈴木さんが好きだった。お洒落で面白くて,誰にでも誠実で優しい人だ。中肉中背だが,顔は若い頃の塚本高史に少し似ていて,お世辞抜きにいわゆるイケメンだった。
聞けば,国内外あちこち旅をしながら,自分なりの生き方を模索しているという。ここに来たのもその一環らしい。旅先での面白い話もよく聞かせてくれた。色々な所で色々な人と触れ合って,ドタバタしている喜劇的な生活が楽しそうだった。むしろ,鈴木さんより人生を楽しんでいる人はいないのではないかとすら思えた。言ってみれば,今風の寅さんだ。