希哲館訳語「如零」は,出来たとき自分で驚いた翻訳語の一つ。論組(プログラミング)において最も間抜けな語感のカタカナ語「ヌル」をここまでかっこよく表現出来ると誰が想像しただろうか。
{あれ K#F85E/5B28-73FA}
宇田川浩行{あれ K#F85E/5B28-C697}
宇田川浩行{ヌルを「如零」と訳す K#F85E/4686-75BF}
宇田川浩行最近の訳語「如零」(にょれい)は,閃いた瞬間ひさびさに鳥肌が立った。「無い」ことを意味するヌル〔null〕,あるいはニル〔nil〕を指す。
ヌル(ナル)やニルは勘機(コンピューター)の分野ではよく使われる言葉であり,参照すべきものが存在しないことを主に意味する。特に日本語の場合,「ぬるぬる」や「にゅるにゅる」という擬態語にも似た音からはどちらかというと気持ち悪い印象を受けるが,これがその機能の特異さとあいまって不気味な言葉になっている。そこでもっと格好良く表現出来ないものかと思った。
まず私はナルを「名零」(なれい),ニルを「似零」(にれい)と訳すことを思いついた。ヌル/ニルはゼロ似た概念であり,しばしば同一視されるため,名前付きの零,似せた零,という意味でさほど悪くない。ただ,ヌル/ニルの違いは各分野における慣習的なものであり,使い分けるのも煩雑だ。例えば C++ 言語における NULL はそのまま 0 の別名であり名零という表現はよく体を表しているが,他の用例一般に適した訳語かというと微妙なところだ。広義のヌル/ニルを比較的汎用性の高い「似零」とまとめて訳そうかと思ったが,まとめることを考えるとニルを音写した「似零」に拘る必要もなく,もっと美しい語が欲しくなってくる。
そして入零,能零……などと試行錯誤しながら辿りついたのが零の如し,すなわち「如零」(にょれい)だ。読みが呉音・漢音混じりでやや俗っぽいことを除けば完璧といえるだろう。この訳語を使えば,ヌル文字は「如零文字」,ヌル ポインタは「如零翻体」,ヌル コマンドは「如零駒手」……などと表現出来る。
仏教における「空」はゼロと根を同じくするインド由来の概念だが,無我に似た如零のあり方は「如来」のようでもある。ひょんなことから最新の科学技術と東洋思想がここに調和した。
……というのは半分冗談だが,あのぬるぬるした不気味な言葉が,それらしい漢字を当ててみるだけで妙に格好良くなり自分で笑ってしまった。これは今後しつこいほど使っていきたい。