もちろん、みんながみんな知識労働者ではないので、高機能メモサービスのユーザー人口が小さいこと自体はさほど不思議ではありません。ただ、知識労働者がみんなこの種のサービスを使ってるかというと全くそうでもないんですよね。高名な学者が紙ユーザーだったりすることも普通にあります。

そもそも、社会で必要とされる知識量は紙のメモで補える程度に設定されています。「紙の限界を大きく越えたツール」は必要なものではなく、あったらいいなという程度のものです。Evernote や Notion があっても紙のノートを使う人の方がずっと多いですが、大抵の人はそれで困らないわけです。

面白いのは、メモアプリ、メモサービスよりやっぱり紙の方がいい、という人がまだ少なからずいることです。最新の個人知識管理ツールもまだ紙を引き離せていません……。

そんなデルンでしたが、マーケティング上の問題として「過剰性能」（オーバースペック）がありました。そもそも、大半の人が扱っている情報は少し工夫すれば紙でも扱える量です。既存のツールを大きく越えるような能力には需要がありません。これは商品としての致命的な問題でした。

例えばこの分野でいうと、このサービスを使ってこんな発見があった、というようなことは盛んに語られています。しかし、紙のメモ帳でもそれなりに使っていれば、ちょっとした発見の一つや二つくらいはあるでしょう。それを正しく、科学的に比較検証したという話は寡聞にして知りません。

また、「限界がない」ことは「無理（我慢）をすれば使える」ことではありません。効率や合理性を無視していいのであれば紙でも Windows のメモ帳でも限界はありませんし、背景からしてもそんな話ではないことは自明です。ページ数が一定水準を越えた時に使いにくくなるのであればそれが限界です。

こうした、紙から一般的な個人知識管理サービスにいたるまで、従来の記録技術が持つ「脳からの距離」を無くすことを徹底して追求したのがデライトです。デライトは、頭の中そのものに限りなく近い情報を表現出来るように設計されています。その核が、ここでざっと説明した輪郭構造です。

人は「紙の呪縛」にとらわれています。ほぼ全ての個人知識管理サービスがこれに依存しているのは無理もありません。実態として紙的ではないデライトでも、キャッチコピーに「魔法のメモ帳」という表現を使ったり、編集ボタンには筆アイコンを使わざるをえませんでした。無論、分かりやすさのためです。

デライトは投稿（輪郭の作成）を「描き出し」と呼んでいますが、これも実は非常にこだわった部分です。紙のような媒体を意識させてしまう「書き込み」を避けたかったのです。頭の中で「思い描く」ように自由自在に使えるものにしたかったわけです。