書籍・音楽・映像作品など,電子化可能なコンテンツの流通において「定額配信サービス」が急速に存在感を増している。
この手のサービスは,権利者が保守的な日本での展開が難しいと言われてきた。先日,音楽配信の Spotify もようやく日本でのサービスを開始したが,一足先に日本版サービスを開始していたアマゾンの Kindle Unlimited では早速問題が起きているようだ。10月3日,同サービスにタイトルを提供していた日本の大手出版社・講談社が,日本版の運営元であるアマゾンジャパンに対し以下の抗議声明を出した。
アマゾン「キンドル アンリミテッド」サービスにおける講談社作品の配信停止につきまして
この声明や各種報道を総合すると,アマゾンが{講談社 #F85E/A-9B4B}を含めた一部のコンテンツ提供元と「ダウンロード数に応じて上乗せ料金を支払う」というような契約を結んでいて,そのダウンロード数が予想を越えて上がり過ぎたために予算の都合で一方的な配信停止を行なったということらしい。配信停止を行なう前に,アマゾンは各社に対し契約見直しを打診していたとも言われているが,同意を得られなかったようだ。定額制であるため収入は会員数に比例することになるが,それに対するダウンロード数の予測が甘かったということなのだろう。 契約内容等の詳細については当然ながら公開されていないため,多くは推測の域を出ないが,アマゾン側が契約違反をした可能性は低い。{契約社会 #F85E/A-D64E-67E3}の国から来たそれなりの{外資系企業 #F85E/A-D64E-D2FA}だからということもあるし,明確に契約違反を行なっていれば「抗議」で済むはずがない。講談社の声明は,明らかに道義上の問題を「世間」に訴える内容だ。つまり,「上乗せ料金を払う」という約束はあっても「配信し続ける」という約束はない,というありがちな契約で起きている問題だと考えるのが自然だろう。だとするとこれは,{日米 #F85E/A-E8CA-03C3}の{商習慣 #F85E/A-D64E-AA76}・{商業倫理 #F85E/A-5DAE}の齟齬の問題でもあると思う。 ここまでの推測が正しければ,印象が悪いのはどちらかというとアマゾンだ。ダウンロード数の見込みが甘かったのは講談社がいうところの「アマゾン社側の一方的な事情」でしかない。何より,人気作品を読みに来ている多くの利用者が「人気があるから作品が消える」という事前に想定し得ない不利益を被っている。契約上問題が無いというのはアマゾンの保身上重要なことでしかなく,他者には迷惑なだけだ。日本人は暗黙を良心で埋めることを期待しがちなので,「禁止されていないことは何でもして良い」と考える種類の人々とは衝突することが多い。今回の問題はその典型にも見える。 ただ,アマゾンにも同情の余地がないこともない。難しい種類のサービスだから多少の計算違いはあっておかしくないし,それを理解して協力する姿勢が日本企業には乏しかったかもしれない。折角良いインフラを用意してやってるのに……と,恐らく,アマゾン社内の心情はそんなところだろう。 しかし,講談社側の怒りももっともだ。営利企業として単に「期待した収益を得られない」という問題も当然あるだろうが,{出版社 #F85E/A-7560}の人達は{著作者 #F85E/A-D64E-414A}・{読者 #F85E/A-2510-8782}との信頼関係構築に日々心を砕いているものだし,Kindle Unlimited への参入にも関係者との調整に走り回ったことだろう。講談社の作品があるから加入したという読者を裏切れば実情がどうあれ自社の信用に傷が付く。その意味でも抗議声明を出さざるを得なかったのかもしれない。 この手のサービスの日本展開はやはり多難に思えるが,「無駄に保守的で遅れた日本」という一方的な見方にも問題がありそうだ。