律動的集中生活を維持しながら,開発作業と輪郭整備兼文書整備を並行して進める。中旬までに良い結果が出ればそのまま続行,出なくても多少雑務が増える程度で済む。まずは上旬中に良い手応えを得たい。
一時はどうなることかと思ったが,デライトの完全な成功に向けて非常に良い状況が作れた。
デライトも公開から2年半ほど経ち,色々な人が興味を持ってくれたり,使ってみてくれたりした。遠くから眺めているだけの人,登録してみただけの人,たまに使う人,いつも使っている人……風変わりなデライトでも,出会った人の多様性は他のサービスとさして変わらない。
私は,そんな全ての“デライター”とデライターの卵達に深く感謝している。付き合いの長さも深さも関係ない。デライトに否定的な人ですら,知ってくれただけでありがたいと思う。
これがよくある社交辞令ではないということは,前回の一日一文,「デライトの歩み」を読めば分かるだろう。そもそも全く無謀な挑戦として始まったのがデライトだ。成功どころか,誰にも認められず終わるかもしれない。それならまだいい。弾圧や暗殺で命を失うかもしれない。10代の内にそこまで想像して葛藤を乗り越え,20年かけてここまで来た。
たとえるなら,デライトの歩みとは,真っ暗な巨大洞窟を一人で彷徨うようなものだった。どこかに新しい世界につながる出口がある。生きている内に辿り着けるかどうかは分からない。そんな洞窟を歩き続けていた時に見えた光,聞こえた人の声。それが私にとってのデライト利用者であり,デライトへの声だ。
そして今,デライトは「完全な成功」一歩手前と言えるところまで来ている。すでに夢のようなことだ。感謝せずにいられるだろうか。
デライトが利用者達とどういう関係を築いてきたか,その具体例として,B̅ さん,t_w
さん,cat
さんを紹介したい。
デライトを公開した2020年から毎日のように使い続け,様々な形で貢献してくれた3名だ。開発上の都合で宣伝活動を抑制せざるをえなかった1年あまりの期間,デライトを日常的に使っているのが私とこの3名だけということもあった。
B̅ さんは,私の次に早くデライトを使い始めた,2人目のデライターだ。
「デライトの歩み」でも触れたように,デライトは2020年2月に「名目リリース」したあと,8月の「実質リリース」まで,ほとんど宣伝せず改良を続ける期間にあった。細かいことを気にしていたら埒が明かない,と公開してみたものの,やはり他人に勧められる出来ではなかった。B̅ さんが現れたのはそんな時期だった。それも,名目リリースの翌月だから,デライトが特にひどかった時期だ。
テスト程度の投稿はちらほらあったが,ある日,明らかに異質な投稿があることに気付いた。「希哲館訳語」に関する内容で,デライトの背景にある希哲館事業についても一定の理解があることが窺えた。しかし,当初は嬉しさよりも戸惑いの方が大きかった。
分かりにくいとよく言われる今のデライトとも比べ物にならないほど,当時は色々な意味でひどかった。
分かりやすいボタンの類はほとんどなく,ダブルクリックで編集欄を開いたり送信したりしていたので,一見して操作方法が分からなかった。デラング(デライト用の軽量マークアップ言語)には最低限の記法しかなかった。遅くて不安定だった上に,エラーやページ移動で入力途中の内容があっさり消えた。いわゆるページャーというものもなく,検索結果の輪郭も引き入れ関係にある輪郭も,最新10輪までしか表示出来なかった。アイコンどころか名前すら設定出来なかったので,自分と他人の区別は内容と知番の利用者番号でしていた。呼び方も当時の利用者番号で「K#9-D657 さん」だった。
設計意図を理解している者が辛うじて使える程度の出来だ。折角興味を持ってくれた人が悩みながら使っているのは見るに忍びなかった。それでも B̅ さんは,開発者が不思議に思うほど,粘り強く使い続け,理解しようとしてくれた。積極的な不具合報告や提案で,開発にも多大な協力をしてくれた。
納豆やウニみたいなものを最初に食べた人は凄いとよく言うが,B̅ さんに抱いている私の印象はそれに近い。普段の投稿でも,分野を問わず耳新しい情報をたくさん集めてきてくれる。知的好奇心の権化のような存在だ。
t_w さんは,B̅ さんが使い始めた何ヶ月か後に現れた。それでも実質リリースの前だから,出来のひどさは大して変わらない。
B̅ さん同様,開発にも様々な形で貢献してくれたが,驚いたのはその行動力だ。色々なことを考え付いてはすぐに実行する。デライトを利用した外部サービスやブラウザ拡張を初めて作ってくれたのも,外部サイトで紹介記事を初めて書いてくれたのも t_w さんだった。ついこの前そんなことをやりたいと言っていたな,と思ったらもうやっている。これはなかなか出来ることではない。
デライターとして外向きの活動は私以上に,誰よりもしているし,デライト内でも私に次いで投稿量が多い。その実験精神と行動力でデライトの使い方を大きく拡張してくれた。
実質リリース後,二度目の宣伝攻勢をかけていた2020年12月に cat さんが現れた。
cat さんも先の2名に負けず劣らず活発にデライトを利用し,開発に貢献してくれている人だが,遊びのような内容の投稿が比較的目立つ。最初は,冷やかしか荒らしかと思ったくらいだ。
それが,だんだんこの人の機械的ではない賢さ,「気が付く力」とでもいうべきものに敬意を抱くようになった。状況や場の空気をよく読んでいるな,と思うことが多いし,不具合報告にせよ提案にせよ,普通は気付かないようなことを的確に指摘してくれることも多い。堅く難解に見えがちなデライトの雰囲気を和らげてくれていたのだと,見ている内に気付いた。いわゆる「EQ」という概念にはあまりピンと来ていなかったが,こういう人のためにあるのかもしれない。
こういうサービスを公開して運営するのは私にとって初めての経験だった。サービスとして風変わり過ぎることもあり,最初は利用者に対して色々な不安があった。
例えば,偏屈な人ばかり集まって近寄り難い場所になるんじゃないかとか,反対に,広く浅く集め過ぎてつまらない場所になるんじゃないかとか,問題を起こす利用者が多くなったらどうするとか,色々なことを考えた。ありがたいことに,全て杞憂だった。
デライター達はそれぞれに良い意味で変わった部分を持っている人が多いが,今のところ,悪い意味で非常識な人はおらず,朗らかで良識ある人ばかりだ。問題という問題も起きていない。それでいてみんな,どこの誰が作ったのかも分からないこんなものを使おうとするくらい,旺盛な知的好奇心と柔軟性がある。リテラシーも高い。知識や技術は後から付いてくればいいものだが,すでに高度なものを持っている人も多い。
この開発者には出来過ぎた利用者達だ。こんな人達が中心にいてくれるなら,デライトの未来は明るいと思える。
こんな文章を書いているのは,デライター達に感謝の気持ちを伝えたかったのと同時に,間違った遠慮をなくしたかったからだ。デライターはまだ少ないので,どうしても開発者や古参に遠慮してしまう人が多いだろう。もちろん,それはデライトにとって望ましいことではない。
デライトが真に知的探究の場として機能し続け,発展し続けるために必要なこととして,平等であることと開放的であることを私は最重要視している。
黒いものでも白と言わなければならない誰かがいるとしたら,そこは知的に自由な場とは言えない。誰でも自由に参加して,誰にも気兼ねなく活動出来る場であり続けなければならないと強く思っている。
だから,デライトに“偉い人”は一人もいない。古参も開発者も,王も神も,デライトでは一人のデライターに過ぎない。そしてデライトの上にはいかなる権威もない。私は,そういう場を世界に広げるために,あらゆる困難と闘う覚悟をしてここまで来ている。
このデライトをこれから盛り上げていくのは,他でもない,全ての等しく尊いデライター達なのだ。
開発作業もほどほどに,集中して「デライトの歩み」を書き上げた。2ヶ月以上かかったが,非常にすっきりした。
書きながら,8月上旬までの律動的集中生活に入ることを決めた。金風に繋がった昨年同時期の成功体験もある。昨年と異なり,すでに非定時執務は常態化しているため,脳過熱対策で抑制していた執務時間を限界まで最大化することになる。
この調子で開発時間を確保出来るのは8月中旬までの見通しなので,上旬までに出来る限り詰め込み,あとは結果を待てる状態にしたい。ここまでの収穫も多大だったが,やはり第二次知番改良など想定外の収穫が多く,予定していた当努の進捗はやや遅れている。
先日の輪符補完機能についての閃き以後,実装方針についての迷いがほぼ消え,頭を使う時間よりも手を動かす時間が欲しい局面にもなっている。この状況なら脳過熱の懸念も小さい。温存していた体力の使い所だろう。
こう20年の歴史を振り返ってしまうと,もう一頑張りしないわけにもいかない。
休み休みデライト宣伝と開発をして過ごした。ついに公開設定機能も実現間近だ。
この上旬は,先月の目まぐるしさの反動もあってデライト以外の考え事も多かったが,それはそれで,希哲館事業全体の認識を更新したり気分を一新したり出来た。調子は取り戻しているので,状況は概ね良い。
中旬で一通りの機能実装を終え,下旬で文書整備を一段落させたい。結果は来月一杯まで待ってもいい。現時点でこの組計に現実感があれば大丈夫だろう。
暑さで外出を控えがちで,運動不足が続いているのは気になる。涼しい時間帯の散歩くらいはするように心掛けたい。気分転換なら休止中の一日一文を再開したり,文書整備を早めに進めるのも良さそうだ。
第26回参議院議員通常選挙の投票日だったので,白票原則に基き白票を投じてきた。
ついに,デライト高速化における最も強力な武器,KNEST 隠し実装を一段落させた。Dex に並ぶ大収穫だ。高速化の遅れは常に集客面での不安要素だったが,これでようやく青天井が見えた。
最適化余地はあえて残してあるので,あとは状況を見ながら最適化を進めていけば十分だろう。隠し実装は早まると足枷になりやすいため,限界ギリギリのところで実装出来たのも奇跡的だった。
6月は機能実装を進めるつもりだったが,第二次知番改良,KNEST 隠し実装を終え,新規用者も増え始めと,想定外ながら大粒の収穫に恵まれた。直感に従ってきたが,終わってみれば全て必然だった気がする。現時点で高速化が進んでいないのは明らかにまずい。機能実装を宣伝したところでまともに活かせない。
分かりやすい成果が欲しくなる時期に,出場整理や交度整理をしっかり進めたのも良かった。今後の機能実装にとっても近道になる。
やはり,デライトに良い波が来ているようだ。7月中に得られればと思っていた手応えがここで来た感じだ。新生デライトの完成後の長期戦も覚悟していたが,短期決戦の可能性が急浮上してきた。
嬉しい誤算ながら,非常に難しい状況でもある。まだ油断は出来ない。力み過ぎて空回りしてもいけない。攻め時も逃がしてはいけない。この状況をどう整理すべきか,ということにだいぶ脳の利素が奪われている。ここ数日の脳疲労感の原因がようやく掴めた。
この波に気付いた当初は,デライト高速化の一段落までもう少しなのに嫌なタイミングだなと思っていたが,よく考えるとギリギリで間に合うところに来ているわけで,奇跡的ですらある。直感で入った第二次知番改良がなければここまで KNEST 隠し実装も進んでいない。一体どこから来た直感なのか怖いほど上手く当て過ぎている。
何はともあれ,デライトの完全な成功は夢ではないし,決して遠くもないという確信を得られたことは喜ばしい。
とりあえず,次回出振るいまではデライト宣伝を控え,KNEST 隠し実装を急ぐことにした。