「ユーザー」(user)という言葉は,簡単なように見えて訳すのが難しい。
日本語では,「使用者」あるいは「利用者」と訳せるが,そもそも使用者と利用者が微妙に異なる概念なので,上手くあてはまらないことが多い。だから,出来るだけカタカナ語を使わないようにと考えていても,つい「ユーザー」と書いてしまう。
法律用語になってくるとまた変わるが,一般的な感覚でいう「使用」は,物や人を直接管理・操作することだ。それに対し「利用」は,他者が管理している物事から利益を得る,という意味合いが強い。自分が所有しているものや,直接操作しているものには「使用」が相応しいし,施設やサービスなどには「利用」が相応しい。「人を使用する」のは労働者を管理指導する権利を持つ者だが,「人を利用する」のはその人の自主的な行動から密かに利益を引き出そうとしている者だ。公共のものでも,エレベーターやトイレなどは「使用する」ということが多いが,これはその機能を直接操作できるからだろう。
英語の「ユーザー」は両方の意味を含んでいるので,大雑把に使いやすい。要は,これに相当する表現が日本語にもあればいい,ということになる。
そこで以前,私は「利使用者」という用語を考案した。利用と活用を併称して「利活用」などというので,「利使用者」も意図するところは明らかだ。しかし,文字数も多く語感も重いので,気軽に使いにくいのが問題だった。
反対の発想で,短かくするという手もある。つまり,「用者」(ようしゃ/ようじゃ)だ。「用者」なら,簡潔な上に「ユーザー」の音写にもなっている。意味が分からないということもないだろう。日本語は漢字によって表現力が豊かな反面,英語などに比べて意味を細分化しすぎ,抽象的な概念を共有しにくいことが多い。こういう場合,文字を削ってみるというのは有効な手段だ。
こういうことは提案だけしていても意味がないので,私は積極的に「用者」を使ってみようと思う。ちなみに,中国語では〈用户〉(ヨンフー)だそうだ。
おまけ。「エンドユーザー」(end user)の「エンド」は「最終」や「末端」と訳されることも多いが,「最終」は漠然としすぎていて意味が掴みづらく,「末端」は良くない意味でも使われるので「終端」が適当だろう。つまり「終端用者」と訳せる。中国語でも〈终端用户〉だ。