IA: intelligence amplification
工学的に人間の知能を増幅させること。世界初の実用的な知能増幅技術としてデライトがある。
人工知能,仮想通貨・暗号通貨,仮想現実・仮想世界……等々,様々な分野が世界的な注目を集める中,これらを凌ぐ潜在力があるにもかかわらず,まともに語っているのは私だけなのではないか,と思えてしまう分野がある。それが「知能増幅」(IA: intelligence amplification)だ。
知能増幅というのは,文字通り,工学的に人間の知能を増幅させることを指す。古くからある研究分野だが,人工知能などに比べてその話題性は著しく乏しい(参考)。この言葉に「人体改造」に近い響きを感じる人は多いだろう。実際,脳にチップを埋め込む,遺伝子を書き換えるといった人体改造的な研究がこれまでの主流で,まず倫理的課題が大きかった。倫理的課題が大きければ技術的課題を解消するための実験などもしにくく,実用段階にある技術が存在しなかった。デライトが登場するまでは,古典的な SF の域を出ず,語れることも大して無かったわけだ。
先日の「デライトの使い方の考え方」で少し触れたように,デライトは,その知能増幅を誰でも簡単に触れるメモサービスとして実現した「知能増幅メモサービス」であり,「世界初の実用的な知能増幅技術」だ。どのように実現しているかはあの文章でざっと書いたので,今回は,この知能増幅メモサービスの意義について書いてみようと思う。
私は,ビッグ・テックや GAFAM などと呼ばれる世界最大の企業群(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)が合併して「Microappglezonbook」となり,自分がその経営を思うままに出来たらどうするか,という思考実験をすることがある。答えはいつも変わらない。iPhone も Google 検索も Windows も,世界最大の SNS も世界最大の通販サイトも,何もかも売り払って,知能増幅メモサービスの開発に全てをかける。
最近何かと話題のイーロン・マスク氏と入れ替わったとしても,やることは同じだ。テスラも SpaceX も Twitter も,何もかも売り払って知能増幅メモサービスの開発に全てをかける。ちなみに,氏の事業の一つには,まさに脳にチップを埋め込む系の知能増幅技術を扱う「ニューラリンク」があるものの,やはり,他の事業ほど目立った成果もなく,あまり知られていない。
つまるところ,あらゆる分野の中で,「知能増幅」が群を抜いて大きな可能性を持っていると私は考えている。これを多くの人が理解すれば,21世紀は間違いなく「知能増幅の世紀」になるだろう。世界初の実用的な知能増幅技術であるデライトは,その嚆矢だ。
長い前置きに似合わず,知能増幅メモサービスがなぜいま最も重要なのかという本題は,拍子抜けするほど単純明快な話だ。知識が最も価値を持つ時代において,最も価値のある知識は「知識を生み出す知識」であり,最も価値のある技術は「知識を生み出す技術」だからだ。まさにそれを研究開発するのが知能増幅という分野だ。そして,知能増幅メモサービスは,最も実現性の高い,実際にデライトが実現している知能増幅技術なのだ。
例えば,人工知能がいかに発達しようと,それを開発し管理し利用していくのはあくまでも人間だ。人間が愚かなまま機械だけが賢くなっても,人間社会にとってのボトルネックは必ず人間の愚かさになる。知能増幅技術は,人間のあらゆる知的活動を最も根源的な部分から持ち上げる技術であると言える。
……と,この単純明快な話を私がしたのは,昨日今日でもなければ一度や二度でもない。昔から,何度端的に語っても,意図するところが伝わった試しがない。どうもピンと来ていないというのか,大体の反応が「なるほど,で?」という感じだ。理屈はなんとなく理解出来ても,それが意味することの大きさを想像出来ていないのだ。その大きさを先に書いた理由だ。
思えば,この“ピンと来ていない感じ”というのは,「個人知識管理」(PKM: personal knowledge management)として認知されつつある分野に感じるものと似たところがある。その名の通り,個人が自らの知識を効果的に管理することに関してはすでに色々な方法論や技術が集められている。その代表的な手段として「メモ」があり,メモアプリやメモサービスなどと呼ばれるものも盛んに研究・開発されている。
このメモサービスを知能増幅に結び付けたのが「知能増幅メモサービス」というデライトの位置付けだが,これが,私が思っていたより変わった発想だったらしい,とデライトの宣伝を始めてから気付いた。個人知識管理の技術を発展させていけば,それは当然知能増幅に繋がる。この単純な発想が,意外にも共有しにくい。「デライトではこんな新しいことが出来る」と言っても,「なるほど,でも○○で間に合ってるから」という反応を受けることが多かった。そこには,想像していたよりずっと大きな温度差があった。
このあたりの分野をよくよく観察してみると,開発者にせよ愛好家にせよ,そこまで大きなビジョンを持っている人はほとんどいないことが分かる。要は,「生活術」とか「仕事術」とか「ライフハック」の範疇でしかとらえていない。個人知識管理が知能増幅に繋がり,それが世界を変える,なんて大それたことを考えている人間は,全くいないわけではないだろうが異端者だ。
私の立場からは「節穴同然の眼力」としか言えない分野の体たらくだ。「趣味の問題」で済む話でもない。そう思ったとしたら,ここまでの話が理解出来ていないか,想像力があまりにも足りない。ただただ,一人でも多くの人がこの分野の本当の可能性に気付いてくれることを願って,私は叫び続けている。
デライトには「使い方」というページがあるのだが,これは最初の頃からまともに更新出来ていない。デライト開発もありがたいことに快調で,いちいち更新していられないほど変化が激しかった。このあたりも近日中に刷新するので,もうしばらくお待ち頂きたい。
もっとも,多くのデライト初心者が躓いているのは,細かい操作方法というより,どういう考え方で使っていくものなのか,という所なのではないかと思う。デライトで躓きやすい「使い方の考え方」について,このあたりで少し補足しておきたい。
デライトは風変わりで慣れが必要なものではあるが,特に難解なものではない。開発者の力不足による不親切さは多々あるものの,あくまで誰でも使えるものを目指している。まずは,ちょっとしたゲームのルールを覚えるつもりで読んでもらいたい。
デライトは,個人の知識をよりよく育て,生活の様々な場面で役立ててもらうためのサービスだ。それを突き詰めた結果として,互いに入れ子に出来る「輪郭」という単位で情報を扱う仕組みを持っている。
ここでいう「輪郭」というのも,まずはごく普通の言語感覚で理解してもらえればいい。ある物事の全体を取り囲むもの,という意味だ。もっと具体的にイメージしたければ,手で輪っかを作り,目に見える風景の一部分を切り取って見てほしい。写真の構図を考える時などに似たことをよくやるが,その時に手で作っている輪っかは,世界のある部分の輪郭だ。
その輪郭を,自由に“保存”出来たらどうだろうか。輪郭の中にまた輪郭を作ることも出来る。一つの輪郭は,他の無数の輪郭を含むものであると同時に,他の無数の輪郭に含まれるものになる。そのようにして,“世界を捉える”ことは出来ないだろうか。さらに,この考え方をコンピューティングに応用することで,従来の情報管理が抱えていた問題を解決出来るのではないか。ここからデライトの輪郭という仕組みが生まれた。
例えば,ファイルをフォルダ(ディレクトリ)という入れ物で分類管理する仕組みは広く使われているものの,人間が頭の中で扱っているようには情報を扱えない。一つの物事をどこに分類するかは,見方によっていかようにも変わりうるからだ。これは,一つの情報を一つの入れ物に所属させるような「階層構造」一般の問題(こうもり問題)としてよく知られている。
他方,こうした問題を解決するため,より柔軟な「ネットワーク構造」(グラフ構造とも)を利用した仕組みも広く使われている。Wikipedia などで利用されているウィキはその代表例だ。ウィキは,ウェブのハイパーリンクという仕組みを最大限に活かし,縦横無尽にリンクを張り巡らしながら情報を整理出来るように設計されている。しかし,こうした技術も万能ではない。柔軟な分,散漫・乱雑になりがちで,焦点を絞って情報をまとめることには向いていない。
輪郭による「輪郭構造」なら,両方の利点を上手く共存させることが出来る。輪郭はいわば「宙に浮いている輪っか」なので,階層構造を持つフォルダのような入れ物とみなすことも出来るし,輪郭同士の関係はネットワーク構造のように柔軟だ。以前適当に作った雑なものだが,下図を見ればなんとなくは分かるかもしれない。
一般に,階層構造は少量の情報を明確にまとめることに向き,ネットワーク構造は多量の情報を緩やかにつなげることに向く。
ウィキなどで作られる情報のネットワーク構造は,しばしば,脳の神経細胞群が作る構造に似ていると言われる。情報同士のネットワーク状の結び付き,という大きな括りではその通りだ。しかし,脳はただ漫然とネットワークを広げているわけではない。脳科学・神経科学でも,神経細胞の結び付きには強度差があると考えられている。つまり,脳は優先順位を整理しながら情報をつなげている。「輪郭」を使ってデライトが再現しようとしているのは,この「まとめながらつなげる」脳の機能だ。
進化の観点から考えれば,動物の脳は,環境に合わせて情報を蓄積し,状況に合わせて有用な情報を素早く引き出せるように出来ていなければならない。もちろん生存のためにだ。どれだけたくさん情報を蓄えられても,必要な時に上手く引き出せなければ意味が無いわけだ。大昔から限界が知られている階層構造が,それでも必要とされ続けているのは,情報に優先順位を付けて整理していく,という脳の機能がとらえやすい構造だからだ。
個人知識管理(PKM)の分野でも,ネットワーク構造を活かしたウィキと並んで,階層構造で情報を整理していくアウトライナー(アウトライン プロセッサー)と呼ばれるものがよく使われている。非常に興味深いことに,この二つを抱き合わせたツールが近年のトレンドの一つだ(Roam Research,Obsidian など)。
脳の進化を追うようにツールも進化しているが,デライトが革新的なのは,既存の仕組みを抱き合わせるのではなく,全く新しい一つの仕組みで脳の機能を十分に再現しているからだ。慣れた利用者にとっては,その単純性がこれまでにない直感性につながる。同時に,初心者には分かりにくさの原因となってしまっている。
デライトは,“人間が触りやすいように”脳の機能を再現することに,どのツールよりも徹底したこだわりを持っている。人の脳は,長い長い進化の過程で無数のテストを通過してきた,情報処理ツールのお手本だ。その脳を使って活動している人間にとって,最も直感的に扱えるのは最も脳に似ているツールだ。そして,保存・検索・共有といった部分での脳の弱点を機械が補えば,これまで不可能だったような高度な知的活動が可能になる。
デライト上に流れている無数の輪郭が,いわば「脳のログ」であることを理解すると,初心者を面食らわせてしまっている部分の多くも理解しやすくなるのではないかと思う。
公開されることもあって,どのような内容をどのくらいの頻度で“描き出し”していいものなのか分からない,というのはデライト初心者が抱きやすい感想だろう。この点においてデライトは,活発なチャットやマイクロブログ(Twitter など)の速さで投稿(輪郭)が流れていくイメージで設計されている。それも,「廃人」達の独り言で埋め尽くされているチャットのような状態を想定している。脳のログならそうなるはずだからだ。
デライト上には,一見意味不明な輪郭も数多くある。脳のログだと考えれば,これもむしろ自然なことだと言える。デライトは,“綺麗に整えたメモ帳”を見せるためのサービスではない。頭の中にある情報を,ありのままに可視化することに意味がある。他人の輪郭を見るということは,他人の頭の中を覗いているようなもので,めまいを覚えるなら正常なのだ。
それでも,ちょっと気になった他人の輪郭から良い刺激が得られることは珍しくない。自分の輪郭を他人の輪郭を絡ませることも出来るので,デライトでは面白い知的交流が日々生まれている。疑似的に再現された脳同士が対話しているわけで,これは疑似的なテレパシーと言えるかもしれない。
新しい順に輪郭が並んでいるのも,もちろん脳のログだからだ。先日の一日一文でも書いたように,デライトは,Twitter のようなマイクロブログにも似ている。そして,マイクロブログはしばしばメモツールとして利用されている。これは,時間軸に沿って記憶を辿るような脳の機能に似ているからだ。
デライトでは,マイクロブログ感覚で思いつくままに輪郭を作り,時にはウィキのように,時にはアウトライナーやマインドマップのように,“まとめながらつなげていく”ことで「脳のログ」を可能にしている。
例えば,釈迦,孔子,ソクラテス,キリスト……あるいはカントでもアインシュタインでも誰でもいいが,後世の人間は文献からあれこれ推測するしかない「偉人」達の記憶が,このような形で残されていたら,と想像してみてほしい。百年後,千年後の人々にとって,「輪郭」は古人について知る何よりの手がかりとなるだろう。あなたにとって偉人以上に大切な人生の記憶をこれほど強く世界に刻み込める道具は他にないのだ。
工学的に人間の知能を向上させようという研究分野は,古くから「知能増幅」(IA: intelligence amplification)と呼ばれている。今や世界的な流行語である「人工知能」(AI)に比べて,語られることは非常に少ない。脳にチップを埋め込む,遺伝子を書き換えるなど,どの技術にも大きな技術的・倫理的課題があり,実用段階になかったからだ。
デライトは,それを誰でも使えるメモサービスという形で実現している「知能増幅メモサービス」であり,「世界初の実用的な知能増幅技術」だ。今後の一日一文では,この技術の歴史的重要性についても書いていきたい。